お久しぶりです。
本業の忙しさに、こちらの活動がなかなかできておりません。
忙しいを言い訳にしております。
そんな中なので、ホラーや難解な映画に食指が動かず。
静かな映画を観ておりました。
今回鑑賞したのは「夜明けのすべて」です。
人はみな、抱えているものがある。
主人公は上白石萌音さん演じる藤沢さんと松村北斗さん演じる山添くん。
それぞれPMS(月経前症候群)とパニック障害を抱えています。
ふだんは細かいことにもよく気が付き、優しい藤沢さんですが、生理が近付くと小さなことにイライラしてしまいます。
周囲に当たり散らし、いつも人間関係を台無しに。
警察に保護されたり、就職先をやめざるを得なくなったりしてしまいます。
ある日突然パニック障害になった山添くん。
電車に乗れなくなり、それまでのように大企業で勤められなくなってしまいます。
ふたりが現在勤務するのは、小さな町の小さな会社「栗田金属」。子ども向けの科学キットなどを製造、販売しています。
生きるのが苦しい病を抱えているのはふたりだけかと思いきや、他の人にも抱える事情があって・・・。
表現がリアル
実力者揃いのキャストさんなので、パニック発作やメンタルが不安定なときの怒りの表現がリアルです。
特に上白石萌音さんのキレ散らかしぶりは、「ああ、いるなあ・・・。こんな人。」という印象。
かなりヒステリックです。
PMSのイライラは、女性が妊娠中に赤ちゃんを守るために備えられた機能です。
敵から身を守るために怒りっぽくなるんですね。
ただ、この症状には悩まされている人も多いはず。
山添くんはパニック障害。
不安を紛らわせるために、炭酸水やガムを大量に消費しています。
これも、当事者の方にはよくみられる行動で、外的な刺激を得ると予期不安が紛らわせるようです。
山添くんの表現度の高さは、美容室に行けなかったり電車に乗れなかったりで生活圏がとても狭まっているところ。
休日があっても、近所を散歩するくらいしかすることがありません。
恋人や友人とも疎遠になっていきます。
藤沢さんが山添くんに「お互い無理しないでやっていこう」というシーンがあるのですが、山添くんは静かに反発します。
「パニック障害とPMSでは、辛さ全然違いますよね?」
PMSで苦労があっても、電車に乗れて遠出できる藤沢さんと、どこにも行けない山添くんとでは、辛さの種類が違います。
どちらも辛いことには変わりないのですが、自分のことで精一杯というのも、実にリアル。
栗田金属の社長、山添くんの元上司、みなそれぞれ心に抱えたものがあり、どれも臨床現場さながらです。
日常に隠れる生きづらさを体感する。臨床の導入編として、なんだかいい映画だったなあと思います。
ショッキングに精神科病棟を題材にしたものより、リアルかも。
かかわりを通して、みんなが少しずつ楽になる。
そんな静かな変化を味わえる作品です。